「砂利」ダンダンブエノ@スパイラルホール

すっかり若手を代表する劇作家になられた本谷有希子さんの脚本。私も大好きなペンギンプルペイルパイルズの倉持裕さんが演出。そして主演は坂東三津五郎氏。なかなか刺激的なダンダンブエノ(近藤芳正さんの企画ユニット)公演です。


地方の旧家、ハスミダ家。政治家で名士であった父に人格否定されて育った故、その死後、抜け殻のようになっている四十男「ハスミダちゃん」(坂東三津五郎)。彼には、毎年血で「あけましておめでとう」と書いた年賀状を送ってくる謎の人物がおり、それが小学校時代にいじめた女の子ではないか、いつか彼女が復讐に来るのではないかという妄想のあまり、恐怖で庭に砂利を蒔く日々。タクシー運転手として兄を支えつつ心には一物ある弟タカオ(近藤芳正)と、お腹に子供のいる恋人・ユウリ(田中美里)にも苛立ちの色が濃い。そんなユウリのもとに、姉のキワ(片桐はいり)が訪ねてくるが、なんと、キワこそがハスミダちゃんが苛めていた女の子だった。一方、ハスミダ家に居候の肺病持ちのトドコロ(山西惇)と、謎の箱を持ってさまよう奇妙な男コモリバシ(酒井敏也)も絡んできて……。




まずスパイラルの客席のしつらえが大変見づらく、舞台の下部分がいっさい見えず、「お屋敷の庭に、病的に砂利を敷き詰めているハスミダちゃん」の「砂利」部分が視界に入りませんでした。すごいマイナスポイント。どういうことやねん。


モトヤさんの筆は、やっぱり男兄弟より女兄弟を描くほうが水魚ですね。序盤、俳優さんの一本調子な演技とともにまったりと苦痛だった時間が、はいりさんが出て来た途端に締まって、生き生きと動き出した。とにかくはいりさんの名演と「キワ」のキャラクターにつきると思う。苛められてた方はすっかり忘れていたのに、むしろ忘れていたことが悪かったかのようにねじれて追いつめられていくキワの物語がいちばん面白かったです。


三津五郎さんは、アフロのかつらでラップを歌わされても、あまり悲壮感漂うこともなく、自然に馴染んでいたと思います。終盤、刀を持った途端に「お、腰決まってるね!」という手慣れた感じになったのが素敵。田中さんがね……冬ソナの何倍かキンキンした声とセリフ回しでちょっと興ざめ。好きだったのは、最後まで脇役にしかなれないトドコロと「箱に痛みをすべて閉じ込めている」と妄想にとりつかれているコモリバシのコンビかな。酒井さんがなんともいい味でした。


過剰な自意識故、幸せに慣れることもできず、大人にもなれない四十路の感覚は、すごく分かる。自分も仲間だから。分かるよ。けど、この甘ったれた世界をそのまま上手にパッケージされて提示されてもなぁ。「なるほどね、ふーん……で?」という余地を残してしまうのが、この手のお芝居の弱さ(同じ種類の弱い人間同士でヨシヨシしあってるだけ、というかね)だと感じるのです。ごめんなさい。ラストシーンで演劇っぽくまとめていたけれど、そういうテクニック的なことではなく。