「幸せ最高ありがとうマジで!」@パルコ劇場

とある本に載っていたドイツのことわざ。「ユーモアとは、『にもかかわらず』笑うことである」。あぁ、まさに!と膝を打つわたしはケラさんが大好きだし、本谷さんもしかりだ。




本谷有希子さんのパルコデビュー作。38歳の誕生日に、いきなり「私ご主人の愛人です」と見ず知らずの家族をぶちこわすべく乱入し「不幸の無差別テロ」を仕掛ける痛い女・明里(永作博美)が主役。わーワクワクする☆!!翻弄されるのは、冴えない新聞販売店一家。住み込みのバイト女性・えいみと不倫しつつ、それがバレるとあたふたするだけの小物な夫・新太郎(梶原善)。いきなり自称・愛人が現れても「すべてゆるしますよ」と暖簾に腕押し風ながら、実はじっとりと悪意を秘めた妻(広岡由里子)。互いの連れ子同士で血がつながっていないため、29歳にして童貞らしき冴えない兄(近藤公園)はダンサー志望の妹(前田亜季)を妹以上に意識している。そして、あらゆる嫌がらせに「理由なんかないの!」と躁状態で喋りまくる明里と、彼女に「リスカなんて一昔前のトレンドよ!」と罵倒され、そそのかされて一家に不倫をぶちまける、内気なメンヘルえいみ(吉本菜穂子)。登場人物はこれですべてです。


前半、無意味に無闇に理屈をこねまくるテロ女は最高でした。特に、同じにしないでよ!とばかりにえいみをぶった切る爽快感。一家をかきまわす行為にはまさに「理由がなく」、その爽快感で突き抜ければ「幸せ最高ありがとうマジで!」だった……。けど、そんな彼女が終盤、妻の反撃に合って「あなただって強がっているだけで『病んでいる』ひとりなんでしょ!」という指摘を受けて動揺しちゃうんですねー。え〜そこ動揺するのか!おまけに灯油かぶって自殺しちゃうのか!(結局しませんが)……と、そのへんからちょっと「分かりやすくエンゲキっぽく」なって残念になったかな、と。「痛い女」が「痛々しい女」にならないから面白かったのに、結局痛々しいの?という印象。……えらそうにすいません。もしかすると、モトヤさんの劇作って「板の上で落とし前をつける」と魅力が弱くなるのかもしれないですね。世界をぶちまけることには長けているけど、「……で?」が見えない感じ。それだけ、前半〜中盤の台詞のたまらなっぷりが光っているのだけど。それだけで十二分とも思えるほどおもしろかったけど。


ドライで機関銃のような永作さんの台詞回しが爽快。さすがチャーミング*1!対する無表情不気味な広岡さんも最高。梶原さんはこの役、耐えるだけでしどころあったのかなーとちょっと心配(笑)。やっぱりモトヤさんは男性より女性を書くほうが何倍もお得意だなと思う。近藤さんは私の弟に見えてしかたなかった……(笑)。


それにしても、客席に俳優女優さんや演劇関係者さんの多い舞台でした。そっちの意味でも眼福。

*1:ふかつさんやみやざわさんやまつさんではこのドライな気持ちよさは出ない。