ディア・ドクター

平日のお昼間にさぼって(こら!)行ってきました。7割がた埋まっていて、派手でなくてもきちんとお客さんを呼んでいる映画なのかな、という印象。(以下、巷でバレている最低限のネタバレあり)




村から、ただひとりの医師・伊野(笑福亭鶴瓶)が失踪。警察の調べで、村人から愛され尊敬されていた伊野が、無免許の「偽医師」だったことが分かる。東京から研修に来ていた相馬(A太)、看護士の大竹(余貴美子)、製薬会社のセールスマン斎門(香川照之)、そして、彼が失踪する最後の引き金を引いた老女・鳥飼かづ子(八千草薫)と東京で医師をしている娘・りつ子(井川遥)。伊野をめぐる人々は、彼をどう思っていて、真実を知らされてどう感じたのか。そして、伊野は何故失踪したのか。


西川監督の前作「ゆれる」同様、答えを観客の想像力にゆだねることを大事にした、緻密な(でも骨の太い)物語です。人間は多面体で、たくさんの思惑と感情が入れ違いながら表面に浮かんで消えていく。だから、第三者が見るとTVドラマのような明確な表現にはならない。そんな当たり前だけど映画として完成させるのにはとても難しいこと、を、西川監督は時間をかけて達成されているのだなあと思います。……だめだなぁ、難しく語ってしまうが、映画は難しくないですよ!とても観やすく、流れは緩急が気持ちよい。


村長(村に医師がこない)と自分(契約金と父へのコンプレックス)の利害関係の一致で引き受けたであろう「偽医者」が、どんどん神様扱いされ、次第にその重さに気づきながらもやめられない。伊野の心理と行動には幾通りもの解釈ができます。他の登場人物もしかり。そして、「偽」は「悪」かというテーマにも、幾通りもの感想があると思います。そんなこんなを、他のひとと語りたくなる映画。わたしも観たあと、けっこう感想を検索しました(笑)。


ポスターはつるべ師匠とA太が二分していますが、これは師匠と八千草さんの物語、ですね。監督の演出のすばらしいところ、練られているところはたくさんあるのですが、鳥飼家に伊野が訪ねてくる夜の場面が素晴らしかった。八千草さんが台所に立つ背中をずっと撮っている場面と、そのセリフのやりとりが、ねぇ……(はぁ)。全体的に、女優陣が素晴らしいです。余さんのとある場面の迫力。そしてあんなに美しい井川さんをはじめて見た。涼しい声と容姿に少しのゆるみと温かみ。「都会の女医さん」にこんなにハマるとは。


伊野=つるべ師匠しかない、というハマリ役というのは納得です。どうも最初は「TVの世界の住人」に見えてしまうのだけど、気にならなくなっていきます。一方、伊野に感銘を受けた相馬が「あなたが本物の医者だ」と熱く語る場面も巧いけど、A太の見せ場は、最後の事情聴取のところでは。複雑な心をあれだけのセリフで感じさせる。テクニックではない部分でのお芝居だなぁと思った。実は意外としどころ少ない役なんですけどネ。あ、出だしのコミカルな部分はカワイイです(笑)。*1


実はコレ、見た人の中でラストシーンがすごい賛否両論の模様。わたしはアリです。

*1:何故かこの映画を見たおかんが、何故か「えーたっていい!!」とスイッチが入ったらしく、舞台を観たい!と騒ぎ出しました(笑)。で、私だけがチケットを持っていると知るとマジで不機嫌に……手がかかる!