BANDAGE

もちろん難解ではない。むしろ骨子だけ見れば一発屋バンドの盛衰を描く、よくある物語。でも、だれもが分かりやすいように感情のレールが敷かれた映画ではない。ジャニーズアイドルがカッコイイヒーローを演じて、ファンがカタルシスを得る映画でもない。「隙間」が多く、それを自分で埋めることを楽しいと思うか、描けていないと思うか。評価はまっぷたつだと思います。ただ、その隙間は狙ってつくられたものであり、これを監督や俳優の「スキルが足りない」と単純に言うのはまちがっている。答が絶対的にひとつ、というものがダメで、隙間を想像しながら観ることが好きな私には、ツボでした。そういう方にはお薦めします。




そこでもう一言、次の台詞があれば。そこでもう1カット、切り返しで表情のアップがあれば。そういう「感情の答」の箇所を、小林武史監督はどんど削っていく。おそらくそれは「説明しなくても音で分かるはず」という確信があってこそ。コトバの足りない部分は音楽で分かれ。分かるでしょ?というメッセージがそこかしこにある。音楽を愛する人のつくる映画だなあと思います。


LANDSのリーダー兼ボーカル・ナツ(赤西仁)は、ひとことで言えばカッコわるい男。音楽の才能ではギターのユキヤ(高良健吾)に劣り、自分が惚れた女子高生アサコ(北乃きい)もユキヤに惹かれている。軽くて優柔不断でリーダーシップもない。佇まいも美意識の高いロッカーというより、そのへんのTシャツとパーカーをひっかけてボサボサの頭でイケてるのか分からない車を乗り回す、「所詮田舎バンド」のボーカル。……と、マンガ原作のきらびやかなバンドものとは真逆で、故にリアリティがあるし、そこにきらびやかの象徴である「ジャニーズアイドル」なはずの赤西が妙にハマっている。ナツに限らず、キャストの演技もマンガ的な部分はまったくない。たとえ噛んだとしても、そのままテイクを使う。だって普段の生活ではそうだから。その意味で、ドキュメンタリーに近い質感があるのが、私には心地いい。だってTVドラマのくっきりはっきり淀みない台詞の演技とか気持ちわるいじゃん。ふだんそう思ってる人には合うと思います(笑)。


赤西もTVでの色がついてない人だし、他のLANDSメンバーも「TVの連ドラでおなじみの顔」は1人もいない。北乃きいもそこまで有名ではないし。その意味でもLANDSにはフィクション臭さがすごく少なくて、キャスティングが巧いなぁと感じたのは私だけじゃないはず。中でもRIZE金子ノブアキが本職ならではのリアリティで映画を締めてます。台詞よりドラム叩いてる時間のほうが長いくらいですよね(笑)。


口数も少なく、本心もなかなか顔に出さないLANDS男性陣に対し、アサコやメンバーのアルミ(柴本幸)、マネージャーのユカリ(伊藤歩)は自分の気持ちをばんばんぶつける。あの対比は狙ってるのかな。小林さんや岩井俊二氏(脚本)の男女観が……なんかあるんでしょうか(笑)。音楽界では、男は女々しく女は雄々しい、みたいな(笑)。


赤西&北乃のコンビはすごくよいです。ラストシーンは抽象的ともとれるけど、私はまんま素直に受け取りました。観た後「ほかのひとはどう思ったかな」というのを検索したくなるのって、私にとって「いい作品」なんだけど、これはそのひとつです。


もちろん、分かりやすく感動したいとか、めんどくさい感情は抜きにスカッとしたいとか、イケメンズに萌えたいとか、そういう目的で観る映画ではないです。はい。