「家の内臓」アル・カンパニー@ギャラリー雑遊/「2番目、或いは3番目」ナイロン100℃@本多劇場

ドラマは些細なところに潜んでいるもので、心はちょっとしたことにも反応し、その触れ幅はそんなに大きくないのかもしれませんが、感動を売り物にするための都合の良い悲劇など必要が無いもののように思えるのです。舞台は日常の些細なことを忘れさせてくれる装置だったのかもしれません。でも、使い方によっては日常の些細なことを思い出させてくれる装置にもなると思うのです。(作・演出 前田司郎の言葉より)


そのとおり。その些細なことを感じ取れるひとでありたいと思います。


平田満さんと井上加奈子さんのユニット、アル・カンパニー。若い作者と組んで、小品ながら面白い作品を上演されているという評判で、今回は五反田団の前田司郎さんの作演出。とある温泉への社員旅行の一夜の話。小さな職場ならではの、逃げようにも逃げられない人間関係。そして5人中3人は仕事仲間でありつつ家族でもある。いかにも「オヤジ」で、しつこい(うざい)上司(平田満)のキャラクターを、全員がもてあましつつも結局は受け入れている、その温度加減が見ていてやるせなく、しかし楽しい。最後にそのオヤジの決意がさりげなく語られ、物語のひとつの「区切り」にはなっているけど、それも淡々とした流れを壊すものではない。「で、何がある?」といえば、何もない。舞台の上で繰り広げられるのは、まるでふだんそこで活動しているのを忘れている内臓のようなもの。でも、それがなければ人生もない。タイトルはそんな意味なのかな。ところで前田さんの「大木家のたのしい旅行〜新婚地獄篇〜」が映画化されたと聞いたのだが、mjdk。それもたけのうっちー主演で。どんな映像なんだ!そして五反田東急でロケをしたのか(笑)?

大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇

大木家のたのしい旅行 新婚地獄篇


ナイロンはなんと35th sessionなんですね〜感慨深い。「2番目、或いは3番目」は、ナイロンの系譜でいうと「4.A.M」「フリドニア」「薔薇と大砲」「消失」などのファンタジー異世界もの。戦争か災害か、なんらかの理由で廃墟と化した世界で、とある悲惨な町を救いに慈善事業にやってくる一行(峯村リエ緒川たまき、マギー、三宅弘城小出恵介)。彼らは「自分たちの町も大変だが、それよりさらに悲惨な人々を助けることでプライドを満足させよう」としているが、しかしその町の人々は廃墟なりの生活を楽しんでおり、肩透かしをくらう。さらに、そこにとどまるうちに人間関係に変化が……。


今回は何より大倉さんと犬山さん。あと犬山さんと双子役(それだけで何か可笑しい)の松永玲子さん。ここのところ、主役として割合と重いシリアスな役どころを担ってきた大倉さんや犬山さんだけど、今回は群像劇の笑いや明るい部分を担当していて、それがズバズバとハマるのがさすが。ボケさせたら天下一品の大倉さんがボケ老人の役ですから、もうやりたい放題ww(に見えて緻密に計算しているところがナイロンの役者さんの凄さなのですが)。イヌコさんは、出た瞬間に舞台の空気が変わります。すばらしい。客演組では緒川さん(いや〜何だかココはいいご夫婦だなと思う)とマギーがケラさんの空気に馴染みまくっていて、さすが。小出くんと谷川美月ちゃんは、上手下手とは別に、役どころが難しく説明不足で、物足りなかったかな。


「4.P.M」や「フリドニア」を観て衝撃を覚え、あの世界観を溺愛するナイロンファンとしては、ダークさやシニカルさよりもまるみや諦めが前に出ている最近の作風はすこし残念でもあるのだが、でもこの長さを飽きさせず、何より笑いと哀しみと恐怖がすべからく紙一重であることを、これほど分かりやすく伝えてくれる劇団はないと思う。一生ファンだと思う。