「クレイジーハニー」@パルコ劇場/「奇ッ怪」@世田谷パブリックシアター/「散歩する侵略者」イキウメ@シアタートラム/「生むと生まれるそれからのこと」BSプレミアムドラマ

本谷有希子×長澤まさみの「クレイジーハニー」観ました。パルコ久々の完売満員御礼だったそうですねー、すごい!


作家・ひろみは自分に勝手な感想と幻想を押しつけるファンに向かって叫ぶ。

なんでそんなに他人が自分の意見を聞くなんて信じてるんでしょうか。なんで自分の反応を疑いもなく伝えようとするんでしょうか。気づいてください。人と人がつながりたいなんて暴力です。あなた達は怪物なんです。

某アイドル兼アーチストのアレコレを思うとアレですな(笑)。暴力をふるう怪物それがファン(笑)という感覚が理解できないひと(たとえば「ファンが甘やかすとタレントのためにならない」とか真顔で言うようなタイプの、ね)には理解できない舞台かと。




一世を風靡したものの今はパッしないケータイ作家・ひろみ(長澤まさみ)のトークショーに集う、コアなファン達。トークショーの相方は彼女が唯一心許すのゲイバーのママ・真貴(リリー・フランキー)。くだらないバカ話に終始したトークショーの後、第2部と称してひろみはファン達を罵倒し始め、ファン達もひろみに自分勝手な幻想を押しつける。そして、その一部始終を記録して新刊にしようとする計算高い編集者・二見(成河)。


舞台の前提にさえ共感できれば(先述のように、なぜそんなにまで「ファン」というものを敵と見なし攻撃するのか、鈍感な善意のひとびとには理解不能だと思われるww)今までの本谷作品の中でもストレートで分かりやすい。さすがにここまで誇張して描かれると誰でも腹が立つね「ファン」役の人々ww。本谷さんには女性に好感度のない女優を使ってみてほしいと昔書いたのですが、今回はついにその願い(?)がかないました。で、長澤まさみっていい子の役やると本人が性格悪そうに見えるけど、いざ悪い役やると本人は性格いい子に見えるんだなあ、というのが感想です(笑)。意外とブラックにならないねー。前半のねちねち嫌味をかますあたりがちょっと無理してる感じ。声が通るし(TVだと甲高くキンキンするのがいい方に作用)柄が大きいから迫力もあるし感情がどんどん乗ってくる後半はとてもよい。初舞台というリリー氏が素晴らしい。ゲイ役なのでいくらでも誇張できるのを、抑え気味にしながらじわじわと染みてくるような演技。出だし「これ古田さんとかだともっとパーッと華やかになるのに」と思ってすみませんでした。


その翌日は「奇ッ怪」。イキウメの前川知大さん作・演出。硫酸ガスで避難勧告が出ている村の高台にある廃寺の様子を見にきた跡取りの息子(山内圭哉)は、その寺に住み着いていたホームレスの男(仲村トオル)と調査に来た村役場の役員(池田成志小松和重)と出会う。彼らとの世間話は、いつしか「思いを残して死んだ死者たちの物語」合戦になっていく。……と書くと暗そうな話ですが、そんなことはありません。池田さんを中心にした軽妙な芝居、トオル氏の天然ボケな存在感、スタイリッシュで安定感のある演出で、軽やかに、そして最後にはずしりとくる。ある日を境に人が住めなくなった村といえばどうしても放射能のことを思わざるをえません。そこにいたひとりひとりに、かけがえのない生活と物語があったことを声高でも直裁にでもなく訴える、フィクションの力と思いを感じた100分。山内さんがひとり寺に残されるラストシーン、ハッとするね。


イキウメといえば、春になるが「散歩する侵略者」は今までの今年のNO.1といっていい舞台だった。初演をDVDで見ていたのでストーリーは知っていたけど、キャストが若返ったことでより瑞々しいラブストーリーになっていたと思う。散歩に出たまま失踪した夫(窪田道聡)。妻(伊勢佳世)の元に戻って来た時、彼の人格は前と変わっていて彼は自分を「宇宙人だ」という。彼と仲間たちは地球人の「概念」を調査していて、それを人間からどんどん奪っていくのだという。信じられない妻だが、確かに身辺に異変が……。荒唐無稽で観念的になりそうな話なのに、まったくそんなことは感じさせない。このグイグイ身につまされる質感は、舞台でしか出せないだろう。概念を奪うときの宇宙人のひと言「……もらうよ」がたまらない。優しく空虚な笑顔を持つ窪田さん、適役だった。先日、刑事事件を起こしたためこの先のことは分からないが、この芝居の価値とは関係ないこと。宇宙人仲間の大窪人衛くんが要注目。阿部さだをが出て来たときと同じくらいのインパクトと癖とキュートさがありました。


その「散歩」が初演から大好きで何度も観に行き、自ら「散歩の追っかけ」wwと称するのが、ハイバイの岩井秀人氏。彼が脚本を書いたドラマがNHKBSプレミアムで放送されました。「生むと生まれるそれからのこと」。ハイバイダイスキーとしては超絶お薦めせざるをえませんぜ!フィギュア作家の男(柄本佑)と写真家の女(関めぐみ)。予定外に子供ができちゃってからのふたりのあれこれが、ほんわかしみじみクスクスと描かれます。いやーいろいろ笑ってシアワセな気分になった。岩井さんのミもフタもないリアルテイスト満載ながら、演出がお洒落にできているので(ほんと分かりやすくお洒落。NHKお金かけてるなってかんじっす)お茶の間的にいちばんいい落としどころを得ている感じです。キャストも豪華(なんです、小劇場好きにはたまらん配役!)。柄本くんって猫背だけど骨格がイケメンだよねー。関めぐみって「女性カメラマン」役が超似合うよねー。そして鶴見辰吾(関パパ)の歌う「夢芝居」最高〜(笑)。あと、元・花組トップの愛華みれがおっとりおばちゃんでいい味出してた。こんな女優さんに……しみじみしてしまいますわ。再放送あるかもしれないので、ぜひ!あ、音楽はSAKE ROCKだよ!すんごくいいよ!
http://www.nhk.or.jp/drama/umuto/


しかし本谷さん前川さん岩井さん(あと「大木家」の前田司郎も)の世代がのびのびしていて、最近の演劇界は面白いですねえ。9月はもうひとりの才人・三浦大輔氏率いるポツドールの新作を観に行きます。めっちゃたのしみら。