「キャバレー」パルコプロデュース@青山劇場

ナチスが台頭しつつある時代のベルリン。「キットカットクラブ」の歌姫サリー(松雪泰子)と、若きアメリカ人小説家クリフ(森山未來)は恋に。クリフの下宿先の大家シュナイダー(秋山菜津子)とユダヤ人果物商シュルツ(小松和重)も婚約。祝福ムードにあふれるパーティで、ナチス党員・エルンスト(村杉蝉之介)はシュナイダーに警告を発し……。そして、そのすべてを見守り、舞台を仕切るMC(阿部サダヲ)。以下ネタバレあり。




そんなマニアでもないし偉そうなのだけど、ミュージカルという手法って、人生や世界の闇や狂気や不穏さや……そういうネガティブなものを際立たせるのに向いている、と私は思います。華やかな音と光があるからこそ、暗闇は引き立つものだから、ね。もちろん、単に明るく楽しくハッピーな名作もたくさんあります。でも私は、そっちタイプの演目が好き。エリザベートとかグランドホテルとかスウィーニートッドとか……とか(笑)。


その意味で、キャバレーにはとても期待していました。割と明るい前半が、幕間前に一転、不穏な空気になる。後半に期待が高まる!キター!……けど、その割に、意外とあっさり終わっちゃうんですね(笑)。オリジナルもそうなのかな?とはいえ、ラスト、クリフが旅立つシーンからぷつんとした幕切れまでの流れには満足しました。


シャイな松尾さんの「温度が上がりそうになると意識的に自分でツッコミをいれて温度を下げる癖」は、最初は正統ミュージカル(=温度が高いほど喜ばれるジャンル)としてどうなんだろう?と思ったのですが、だんだん気にならなくなりました。たぶん、サダヲちゃんが上手いからだと思うのですけど。そう、とにかく予想通りMVPはサダヲちゃん。別に特にミュージカルの素養があるヒトじゃないんだよ、と言ったら、同行人のオカンが真面目に驚いてた。初ミュージカルの松雪さんを観ると分かるのですが、「音程」「振り」などの要素を分解すると「できている」「よくやっている」のだけど、その間をつなぐ空気感(これがいちばん大事)は出せないんだよね。どうしてもどこかで手持ち無沙汰になっている。サダヲちゃんや秋山さんはそこが本当に上手です。


松雪さんは、意外や歌>芝居でした。押し出しが弱いのは仕方ないけど、台詞の癖が強く、ベタついて聴き取りにくい。歌は音程が安定していて、緩急も上手。ただ、声質やスレンダーなスタイルから、どうしても「小娘」という感じがしてしまいますね。キャバレーに君臨する色気(=クリフとの世界の差)は感じられず。仕方ないけども。


クリフの森山君はスーツ姿が素敵で、オカンが「すてきぃぃ!」とハート飛ばしてた(笑)。髪型がフワフワしてて可愛かった〜。でもクリフってほとんど芝居だけなのね。抑制が効いていて「大人っぽくなったなー」と思いましたけど、せっかく森山君なんだから踊り見せてくださいーーーー!あ、村杉さんへの跳び蹴りは凄かった(笑)。客席どよめいてた。


主役に見えたのは、サリー&クリフより、シュナイダー&シュルツ。いやー「パイナッポー♪」のデュエット、最高でした!秋山さんと小松さん、相性いいー。小松さんのチカラの抜けまくった歌がまた爆笑なんですよ……歌声初めて聴いたけど(というかこのひとの歌を聴くことになるなんて思ったこともなかったっすよ!)、妙にソフトで繊細なのがまた。大人計画からは、村杉さん&平岩紙ちゃん&星野源ちゃん。源ちゃんはギター担当も。村杉さん素敵でしたね。なるほど、ナチス党員にピッタリの顔だなーと(すみません)。


青山劇場、少し大きかったような。音楽劇には最適のハコなのでしょうけど。空間を埋めるモブキャストをもっと出してもよかったんじゃないかなー。人が少なくて、キャバレーのだらしなく豪華な感じが出ない(私がタカラヅカの群衆場面に慣れているからかもしれませんが)。2階の上からだと印象スカスカだったんじゃないでしょうか。あと、ミュージカル畑の人がいないので、大きな舞台に響かせるには、皆さん歌が繊細なんですよね。唯一、サダヲちゃんと秋山さんが力強いくらい。


と、書いていくとネガっぽいけども、凄く楽しかったです。特に、大人計画ファンからきた人は楽しめたと思います。純粋なミュージカルファンから来た人はどうだったのかはちょっと心配だけど(笑)及第点はとれてるのでは?MCの使い方がさすがだったし、巨大な猫のお化けが出て来たりする松尾流の陰影と、原作の陰影との相性もよかったです。こんどは、オーソドックスな演出のキャバレーが観たくなりました。


そして、宝塚の「グランドホテル」が懐かしくなった。あれは奇跡のような素晴らしい舞台だったな……。映像として公式に残っていないのが残念でならない。