「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」パルコ劇場(ネタバレあり)

マーティン・マクドナー×長塚圭史の第3弾。「母娘」に焦点を当てた作品です。このコンビにはハズレないです。




アイルランドの田舎町・リナーン。口うるさくひねくれた老母マギー(白石加代子)と、その面倒をみるために40歳になっても家に縛り付けられている娘モーリーン(大竹しのぶ)。彼女はかつて「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」と言われた女性だったが、ロンドンに働きに出て差別をうけ精神を病んで以来、それを引け目に感じている。モーリーンは、久しぶりに再会した隣人のパト(田中哲司)と意気投合し一夜をともにするが、もちろん母親はそれを快く思うはずもなく……。


ちょっとだけ「ガラスの動物園」的でもある、母と娘の確執。かなり通俗的な物語だけども、主役の2人の迫力と、長塚演出のツボの心得方で最後まで引き込まれます。白石さんの、憎たらしいのにどこか愛らしさもある「ばばぁ」ぶりったら!最後の最後で弱くなるところが、可愛い……。そして、大竹さんの決して美人ではないのに(失礼)男性を惹き付けつつ、乙女のようでもあり、母親そっくりの老女でもあり……という魅力。彼女の「病み」は過去形ではなく現在形であることが、徐々に明らかになっていくのですが、その怖さがあってなおキュートなのが、大竹さんならでは。実は、舞台での大竹さんって今までそんなに好きではなかったのですけど(ちょっと力みすぎというか)今回はいちばん良かったかも……えらそですね。


男性陣。こういう「ちょっと鈍くて気のいい二枚目」をやらせたら田中哲っちゃんの右に出る人はいない、ように思う(笑)。古くは「OUT」の十文字とか「欲望という名の電車」のミッチェルとか。今回も悲しい(&ちょいおまぬけっぽい)役回りでラブリー!いつも体と声と口跡がとても安定していて好きです。パトの弟で、事件のきっかけをつくるレイ(長塚圭史)。直前のキャスト交代でしたが、個人的には圭史さんのお芝居が見られて嬉しかったです。妙に若作りしてたけどネ(笑)……髪の毛が増えてる、と思ったのは気のせいでしょうか……。


演出で言うと、ラストシーンと、その前の、母の体の上にハイヒールで立ち尽くす娘。そこが印象的でした。それにしてもこれが(たぶん20代?)の処女作って……マクドナー氏ってすごいですね。終演後、エレベーターの中でおじさまが「いやぁ、女の業だねえ」と唸っていました(笑)。


そうそう、最後の暗転で間髪入れず拍手いれた鈍感な客!あそこは物語の余韻を味わう時間です。もうそういう呼吸ひとつで台無しなので、空気読んでください。