「わが闇」ナイロン100℃@本多劇場

去年の作品を今ごろすみません。年末に銀座の真ん中で、知人の演劇ライターさんと久しぶりにばったりと出会ったのですが「久しぶりですね!」の次の彼女の台詞が「ながさん、わが闇見たっ!?」だったのでおかしかったのを覚えています。もうちょっと近況報告とかあるだろ?に(笑)。それくらい、素晴らしい作品だったのですよね。07年の最後がこの作品で本当に良かった。




父親と長女が有名な作家である「柏木家」サーガ。中心になる三姉妹は、感情を内に溜め込む優等生の長女(犬山イヌコ)、アイデンティティをつかめない次女(峯村リエ)、自由奔放な三女(坂井真紀)……というステレオタイプな姉妹構成なのですが、彼女たちに起こるエピソードのひとつひとつが何とも切ないです。互いの嫉妬や悪意が生み出す小さな事件とか、でも悪い人にはなりきれないマヌケ感とか、どこかズレているおせっかいな愛情とか(笑)。小さな出来事の積み重ねで人生の滑稽さと哀しさを描くというのは、ケラさんの作品の中でも「下北ビートニクス」や「カメラ≠万年筆」に近いのかもしれません。最後の最後に明かされる、亡き父が娘たちに仕掛けたサプライズで少し泣けました。でもその浄化された気持ちもまたすぐ忘れ去られて、きっとまた傷つけあったり、煮詰まったり、していくのだろうなぁ、この家族は。


3時間半を滑らかに進めるための「笑い」はカメラマン・大鍋(大倉孝二)や編集者・皆藤(長谷川朝晴)など、外部からこの家にやってくる人間が担っています。大倉さんの一言一言で的確に笑いを持っていく力とか、ハセの気弱な羊キャラのくせにしゃあしゃあとしてるところとか、本当に上手いなー。一方、出番の少ない役者さんの役柄も少しもおろそかにされていない。冒頭だけの登場で、あとは会話に出てくるだけの柏木父(廣川三憲)や、その後妻で娘たちとはうまくいかない志田(長田奈麻)が印象的です。


いや、役者さんもすべての方が素晴らしかったとしか言いようが……。三姉妹はもちろん(坂井さんがやんちゃな末っ子をサラッと気持ちよく演じていて、すごくキュートでした)、柏木家の書生をほのぼのと少し物悲しく演じる三宅弘城さんも、狂言回しの岡田義徳くんのほどのよいお芝居も良かったし……全員になっちゃいますね(笑)。


これだけ充実した役者さんと物語を、忙しい時期にゆったりとどっぷりと観る贅沢って、このうえない幸せです。ケラさんはじめスタッフの皆さんとキャストの皆さんに、心からありがとうございました、という3時間半でした。