「失われた時間を求めて」阿佐ヶ谷スパイダース@ベニサンピット

少し前の芝居の感想です、すみません。


あけない夜。抜け出せない公園。止まった時間と空間の中にいる、夫から逃げて来た女(奥菜恵)と、邪悪な心を持っているのに幸運に恵まれ続けることに恐怖を覚える男(中山祐一郎)と、猫を探す弟とその兄(長塚圭史伊達暁)の心理劇。




不勉強なのですが「動物園物語」(エドワード・オルビー作)と似た設定だそう。タイトルだけだと「失われた時を求めて」(マルセル・プースト)と関係あるのか?と思うけど、長塚さんは否定しているようですね。はっきり言ってかなり難解なので「理解」することは難しいけれど、面白くないわけではないのです。むしろこーゆーの好きですよ(好きな役者さんが演じていなければ、目も当てられないけど)。奥菜さんに「傍から見たら恵まれているのに夫との生活に不満で家を出て来た」という独白をさせるあたりかなり悪趣味だけど(笑)、たぶん、演じている奥菜さんはそんなことは気にしてない、というか、私と公を素直にだぶらせて感情移入しているのは根っからの女優さんだよなぁと思いました。それにしても、長塚さんは奥菜さんに「魔性と母性」を見ている、というのがいちばん面白かった。前に「胎内」で共演した時、奥菜さんに抱かれて丸まりながら息絶えた場面を演じた長塚さんですが、以来あの母性にヤラレたのかなとか思ったんですけど、どうでしょうか……。


これまでの阿佐スパに比べればあまりに訳が分からない不条理劇なので、とまどった方が多かったようです。私の隣のひとが「初めての小劇場観劇」だったようで、たぶん「阿佐スパなら面白いしドラマチックだし」ということで誘われたのでしょうが、どう思われたのかすごく不安……(笑)。


一方で、「心の中は悪意に満ちているのに、何もバチが当たるどころか、次々ラッキーに見舞われて、それが耐えられなくてに狂いそうになっている」という中山さんの役所は、いかにも阿佐スパ!中山さんならでは!という面白さでした。よくこんなキャラ設定思いつくなぁ……。静かなる男・伊達ちんもあの声と今回の演技はすごく合っていました。ベンチと街灯とゴミ箱、周囲に深い落ち葉を敷き詰めた舞台装置がシンプルながら素敵。