ハイバイ「ヒッキー・カンクーントルネード」@アトリエヘリコプター

「て」と並んで、ハイバイの代表作と名高い「ヒッキー」。作者の岩井さん自身が16〜20歳まで実際に引きこもりだった、という体験を織り込みつつ、それを笑えるエンタテイメントに消化(昇華)しつつ、1時間15分でシュアにまとめつつ、という素晴らしい芝居。いっやー面白かった!




プロレス好きの引きこもり30歳・登美男(岩井秀人)。彼のいちばんの理解者である妹の綾(成田亜佑美)、息子をなんとかしたい母(平原テツ)、彼を治療すべく家に乗り込んでくる怪しいカウンセラー黒木(チャン・リーメイ)とけいいちくん(坂口辰平)。もうどこを切り取っても可笑しゅうて、やがて悲しき(笑)。黒木のショック療法で、ようやくアキバに出かけることができた登美男が、電車の中で絡まれてボコボコになってかつぎこまれて帰ってくるクライマックスは、登美男くん顔が血まみれだわ、おかーさんは泣いてるわ、妹はそんなカウンセラーを連れて来たおかーさんを責めるわ、な修羅場なのにも関わらず客席は笑ってる。横でN君笑いすぎて泣いてるし(笑)。……ああ、伝えづらいな。


自分自身を笑う、というのはすぐれた表現の条件だけど、突き放して笑うだけでなく、底の底には、ちゃんと温かい目線があるから、とても気持ちいい(いい意味でメジャーな)エンタテイメントになってるなあと思う。みちのくプロレスが町にやってくるラストシーン、その温かさに不覚にもじーんとした。「て」の時も思ったけど、おかーさんの役を男優がやるのが、凄く効果的。ウェットになりすぎなくて。……訳わかんない感想でごめんなさい。ヘビーな体験ほど、フィクションや笑いへと客観化することで救われるのだとしたら、これは、ナイロンにおける「カラフルメリィ」なのかもしれません。←ますます訳わかんないだろ。


お兄さんをそのままの姿で認めてる(社会適応者に「更正」しようとする人々をうさんくさく思っている)綾ちゃんが、とてもリアルで可愛い。そして、自意識過剰な人間の仕草や物言いを、自然に、でも確実に笑いをとりながら演じる岩井さんの巧さはさすがです。誰にでも、プライドは高いが臆病で弱くて自意識過剰な登美男の要素はあると思う。その意味でも、誰にでも楽しめる芝居ではないでしょうか。特にわたしには紙一重な主人公なので(笑/いまだ社会適応力が異常に低いアラフォーだよん)、みょーにハマりました(笑)。